ダイエットに運動が重要なのは世の常識です。しかし「運動したらその分お腹が空いて、かえって食べ過ぎてしまうのでは…」と二の足を踏んでいる人もいるかもしれません。

「食欲を抑えるのにも運動が有効」という事実を知っていますか。複数の実験結果から、身体を動かすことで一部のホルモンの量が変化し、食べすぎを回避できるという事実が明らかになっています。

そこで運動が食欲を抑える3つのメカニズムや、食べすぎ防止につながる運動の種類、最適なタイミング、効果を高めるコツなどを詳しく解説します。

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この記事でわかること
・食欲を抑えるには「筋力トレーニング」「ウォーキング」「ランニング・ジョギング」「ヨガ・ストレッチ」がおすすめ
・タイミングは食事前でも後でもOK

運動が食欲を抑える3つの理由

運動がダイエットにつながる理由は、脂肪を燃焼させることだけではありません。運動には食欲を抑える効果もあるのです。ここではその3つの理由を説明しましょう。

1.運動が食欲関連ホルモンに作用するから

まず1つ目は「運動が食欲関連ホルモンに作用する」ことです。

ホルモンはさまざまな生体機能を調節し、制御する役割を果たします。そのうち運動と食欲に関連するのが「グレリン」と「ペプチドYY」の2つです。

グレリンは別名「空腹ホルモン」とも呼ばれ、胃から分泌され脳の視床下部に働きかけます。人の「食べたい!」という気持ちを増進させる役割があり、食事の直前に分泌量が最も高くなります。運動するとこのグレリンの作用が抑制されます。

ペプチドYYはグレリンとは逆に、食欲を低下させるホルモンです。腸管から分泌されて視床下部の受容体に働きかけます。運動するとぺプチドYYの分泌量は増加します。

またよく耳にする「アドレナリン」にも、食欲を抑える効果があります。アドレナリンはストレス反応に対して身体を戦闘モードにするホルモン。運動による適度なストレスは、アドレナリンの分泌にも効果的です。

2.運動で自律神経が安定すると代謝が改善するから

次は「運動によって自律神経が安定する」ことです。

自律神経は体温や血圧、呼吸や消化など、生命を維持する機能を調節する神経です。身体を活発にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経とがあり、2つがバランス良く働くことで心身の健康が保たれています。

積極的に身体を動かしている間は交感神経が、休んでいる間は副交感神経が優位になります。このリズムが重要です。交感神経は身体を緊張状態にして空腹を感じにくくし、副交感神経は食事後の消化官の働きを活発にします。

自律神経が安定すると、ストレス由来の暴食を防げるだけではありません。そのうえさらにカロリー摂取後の消化もスムーズになるため、エネルギー代謝の助けになります。

3.食事制限のみだと反動が起こるから

またこれは実際に経験したことがある人も多いかもしれませんが、食事制限のみでダイエットを行うと、反動で食欲が増してしまう場合があります。

食事量やカロリーを制限すると空腹ホルモンであるグレリンが増えて「レプチン」が減少します。レプチンは、満腹中枢に「もうお腹がいっぱいだ」という信号を送るホルモンです。したがって食事を制限すると、していないときよりも空腹感が強くなりやすい上に、満腹感まで得にくくなるのです。

特定の代謝物上昇が関連しているのではという論文も

また最近の研究結果によると、運動で体内に生成される「Lac-Phe」という代謝物が、食欲の抑制に関連しているのではないかともいわれています。

Lac-Pheは筋肉でエネルギーが作られるときに生成される「乳酸」が、食品のたんぱく質の中にある必須アミノ酸「フェニルアラニン」と結合したもの。

これらの科学的な要因から、エクササイズの実践が食欲低下につながることが明らかになっています。

「運動が食欲を抑える」実験結果の一例

世界には「運動が食欲を抑える」事実を科学的に実証したレポートがいくつかあります。その内容と結果を簡単に紹介しましょう。

運動しない人は、する人よりも高カロリー食を選ぶ

ある実験では、食事制限で摂取カロリーを減らした人たちと、エクササイズでカロリーを減らした人たちとが、同じビュッフェ形式で食事をしました。

その結果、食事制限の人のほうが、エクササイズした人よりも平均で1/3以上カロリーが多いメニューを選んだのです。

運動しない人は、する人よりも食べすぎる確率が上がる

 また別の研究では、特定のエクササイズを1年間続けた人たちと、そうでない人たちとの食事の実態を記録しました。

するとエクササイズを続けた人たちが食事で1日の推奨量を上回るカロリーを摂取する確率は「5%」ほど。一方、運動をしなかった人たちは「12%」という結果になりました。運動習慣がない人は、習慣がある人と比較して食べすぎる確率が倍以上になったのです。

このほかにもさまざまな実験によって、運動が食欲を下げる効果が実証されています。

食べすぎを防ぐ運動のタイミング

それでは食べすぎを防げる、トレーニングのベストタイミングはいつなのでしょうか。

食事前でも後でもOKだが、食後30分は避ける

結論からいえば、ダイエット目的の運動は、食前でも食後でもかまいません。

一般的に食事前の運動は脂質を燃焼する効率が高くなりますが、例えば起床後すぐなど、空腹すぎる状態で始めると、デメリットが上回ることがあります。低血糖でめまいや倦怠感などの体調不良を起こしたり、筋肉が分解されて筋力が落ちたりするリスクが増加するのです。

食後すぐは胃が食べ物を消化中で、消化器に負担となる可能性が高いです。食後は最低でも30分空けてからが良いでしょう。

軽度なエクササイズは朝がおすすめ

ウォーキングなどの軽度なエクササイズは朝の時間帯におすすめです。

朝食、もしくはバナナやおにぎりなどのエネルギー源になる軽食を摂った上で臨みましょう。屋外で朝の日差しを浴びながら20〜30分程度身体を動かす習慣は、自律神経や体内時計を整えるのにも最適です。

食後の運動も上手に取り入れて

また食後であれば、摂取したカロリーや脂質を調整することができます。「ちょっと食べすぎたかな」と思った時にはいつもより時間を長めに取るなど、臨機応変な対応が可能です。減量や体型維持につなげやすいでしょう。

また運動は習慣化が重要です。「食事前に出来なかった日には食後に振り替える」などの方法で、無理なく継続することを心がけてください。

運動後2時間以内には栄養補給を

なお、運動後の身体はエネルギー源である糖質を回復したり、筋タンパク質を合成したりする必要があります。2時間以内を目安に、栄養補給として何かしらの飲食物を摂取しましょう。栄養バランスに優れ、手軽に飲めるプロテインドリンクなども活用してください。

食欲を抑えられる4つの運動

それではここからは食欲を抑えるのに効果のある運動を4種類紹介します。取り組みやすいものから始めてみてはいかがでしょうか。

筋力トレーニング

まずは筋力トレーニングです。筋トレは短時間で大きなエネルギーを使う「無酸素運動」に分類されます。無酸素運動は有酸素運動よりも食欲を抑制する効果が高いとされています。

マシンジムに通う必要はありません。家でスクワットや階段の上り下りをするのでもOKです。

例えばスクワットであれば、10回×3セット程度をめやすに始めてみましょう。腰を沈めてからゆっくり戻すまでを8〜10秒、セットの間のインターバルを60秒と仮定しても、7分ほどあれば十分です。

ウォーキング

誰にでも気軽に始めやすく、続けやすいのが「ウォーキング」。素早くリズミカルに足を進めると、じんわり汗がにじんでくる立派な有酸素運動です。脳の活性化や生活習慣病の予防にも役立つでしょう。

有酸素運動で脂肪が燃焼を始めるのは20分以降なので、理想は1回あたり30分ほどです。とはいえなかなか時間が確保できない場合は、10分からでもかまいません。

ランニング・ジョギング

より多くのカロリーを消費したい人にはランニングやジョギングはいかがでしょうか。ウォーキングよりも運動強度が大きく、心臓や血管を強くする効果も期待できます。

ただし初心者がいきなり長時間のランニングに取り組むと、ケガなどのリスクも高くなります。ウォーキングからじょじょにステップアップしたり、ランニングとウォーキングとを交互に組み合わせたりなど、無理ない範囲で習慣化を目指しましょう。

ヨガ・ストレッチ

ヨガやストレッチは、これまでに紹介したほかのエクササイズよりも、自律神経からのアプローチを重視する人に向いています。

食後にもかかわらず「まだ何か食べたい」というような衝動がわき起こってきたら、ヨガによって副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせてみましょう。

また瞑想の時間を設けて「自分の中で、過食や暴飲暴食の原因になっている不安や緊張とは何か」という問題の根本に、じっくり向き合うのも有効です。

運動で食べすぎ防止効果をより高める4つのポイント

最後に、食べすぎ防止効果をさらに高めるためのポイントを4つ説明しましょう。

「高強度の運動×休憩や軽い運動」の組み合わせが理想

食欲を抑える結果に影響するのは、高負荷な運動・低負荷な運動のどちらかではなく、両方を組み合わせたトレーニングです。

強度の高い運動の間にインターバルを挟む「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」 が注目されています。一例として筋トレ(無酸素運動)であれば、4種類のトレーニングを1回20秒、合間に10秒の休憩を挟んで2セット行うのが一般的な方法です。この場合、所要時間はわずか4〜5分ほど。運動の種類や時間設定には、ほかにもさまざまなバリエーションがあります。

インターバル運動を続けている人は、普通のトレーニングをしている人よりも空腹ホルモン

・グレリンの抑制効果が高いことがわかっています。

運動前・運動中にはレモン水などでしっかり水分補給を

特に有酸素運動では発汗によって身体の水分が奪われるため、運動前や最中に、しっかり水分補給するのが重要です。

食べ物と一緒に水やスープを摂ると、満腹感が高まりますよね。また食べ物からも水分が摂取できるため、のどが渇いている状態を「お腹が減った」と脳が誤解してしまうことがあります。

さらに水とともに「クエン酸」を摂るのも有効です。クエン酸はレモンなどの柑橘類に含まれる酸で、運動後の筋肉にたまる乳酸を分解し、代謝を改善します。酸っぱいレモンの味や香りにも、食欲を抑えて満腹感を高める働きがあります。

無理な制限はせず、食事はゆっくりよく噛んで

無理な食事制限はかえってストレスで過食を引き起こしてしまう可能性があります。3食バランスよく、できるだけ規則的なリズムで摂るようにしましょう。「忙しいから朝食抜き」「ダイエットのためにランチ抜き」などは逆効果です。

ゆっくり消化され、身体への負担が少ないメニューや食材を選ぶのもポイントです。また食べ物はよく噛んでください。満腹ホルモン・レプチンは、食べ始めから20分後に分泌され始めるため、食事には最低でも20分以上はかけたいところです。

激しい運動の後には適度な栄養補給を

繰り返しになりますが、食欲がわかなくても運動後の食事を完全に抜いてしまうのはNGです。ホルモンによる食欲抑制効果は2時間程度といわれています。

昨今はプロテイン配合や低糖質など、トレーニングする人の健康にも配慮した商品が豊富なので、ぜひ上手に取り入れてください。脂肪燃焼やカロリー消費だけにとらわれすぎず、適宜栄養補給して強い身体を作るのが、健康的にダイエットを成功させる秘訣です。

無理のない運動習慣で、上手に食欲をセーブしよう

エクササイズには、体内のホルモン分泌と関連して食欲を抑える効果があるとわかりました。

ダイエットだけでなく健康維持の観点からも、無理のない運動に取り組む習慣がますます重要になっています。 まずは毎日数十分からでもOK。ちょっとした時間を見つけて、できることからチャレンジしてみてはいかがでしょうか。